東京地方裁判所 昭和53年(モ)6752号 決定 1979年7月25日
申立人 更生会社東洋バルヴ株式会社管財人 大野浩平
右代理人弁護士 石川泰三
同 大矢勝美
同 岡田暢雄
同 吉岡桂輔
被申立人 北澤國男
同 岡野或男
右両名代理人弁護士 日沖憲郎
同 小幡正雄
被申立人 岡野匡男
右代理人弁護士 長野法夫
同 熊谷俊紀
同 富田純司
被申立人 北澤隆衛
同 北澤淑夫
右両名代理人弁護士 前田利明
被申立人 北澤澄雄
右代理人弁護士 日野魁
被申立人 北澤元男
同 北澤克男
同 北澤秀男
右三名代理人弁護士 堂野達也
同 堂野尚志
同 土方邦男
被申立人 小口良一
右代理人弁護士 三宅陽
被申立人 中野高男
右代理人弁護士 山岡義明
同 市原敏夫
主文
一、更生会社東洋バルヴ株式会社の被申立人らに対する損害賠償請求権の額を次のとおり査定する。
1. 被申立人北澤國男、同北澤隆衛、同北澤元男、同北澤克男、同小口良一に対する
(一) 違法利益配当分損害金 金一〇億三七九〇万一七四五円
(二) 違法役員賞与分損害金 金二億七九五〇万円
(三) 税金支払分損害金 金二九億八一一三万一四二四円
(四) 違法貸付分損害金 金六億五九八万九六三三円
並びに右各金員に対する昭和五三年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員。
2. 被申立人北澤澄雄に対する
(一) 違法利益配当分損害金 金六億五九〇万一七四五円
(二) 違法役員賞与分損害金 金二億三六一一万円
(三) 税金支払分損害金 金二五億三四三一万八一七一円
(四) 違法貸付分損害金 金五億四二七〇万二四〇一円
並びに右各金員に対する昭和五三年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員。
3. 被申立人北澤淑夫に対する
(一) 違法利益配当分損害金 金九億七一九〇万一七四五円
(二) 違法役員賞与分損害金 金二億五二二二万円
(三) 税金支払分損害金 金二六億三六〇二万八四八四円
(四) 違法貸付分損害金 金四億八七六七万九三五三円
並びに右各金員に対する昭和五三年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員。
4. 被申立人岡野或男に対する
(一) 違法利益配当分損害金 金七億三六九七万四五四五円
(二) 違法役員賞与分損害金 金一億八〇六四万円
(三) 税金支払分損害金 金一八億三七三万一五六二円
(四) 違法貸付分損害金 金二億八五四三万四四九円
並びに右各金員に対する昭和五三年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員。
5. 被申立人岡野匡男に対する
(一) 違法利益配当分損害金 金六億四三二二万四五四五円
(二) 違法役員賞与分損害金 金一億四二〇四万円
(三) 税金支払分損害金 金一三億七二〇五万四五五円
(四) 違法貸付分損害金 金二億四一二万七二三二円
並びに右各金員に対する昭和五三年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員。
6. 被申立人北澤秀男に対する
(一) 違法利益配当分損害金 金五億六八二二万四五四五円
(二) 違法役員賞与分損害金 金一億五三九万円
(三) 税金支払分損害金 金一〇億四二三三万四五六三円
(四) 違法貸付分損害金 金一億三八五一万七二三二円
並びに右各金員に対する昭和五三年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員。
7. 被申立人中野高男に対する
(一) 違法利益配当分損害金 金四億三二〇〇万円
(二) 違法役員賞与分損害金 金四三三九万円
(三) 税金支払分損害金 金四億四六八一万三二五三円
(四) 違法貸付分損害金 金六三二八万七二三二円
並びに右各金員に対する昭和五三年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員。
二、申立費用は被申立人らの負担とする。
理由
第一、申立ての趣旨
主文と同旨。
第二、申立ての理由
一、1. 株式会社東洋バルヴ株式会社は(以下、本件会社という。)は、昭和五二年三月三一日、東京地方裁判所において会社更生手続開始決定を受け(同庁昭和五一年(ミ)第二〇号事件)、申立人がその管財人に選任された。
2. 本件会社の決算期は、昭和四一年一二月一日から同四八年一一月三〇日までは年二回(毎年五月末日及び一一月末日)、以後同五一年一一月三〇日までは年一回(毎年一一月末日)であり、その間の第四九期から第六五期までの各期の営業期間は、別紙第一目録ないし第一七目録の各1記載のとおりである。
3. 被申立人ら(ただし、北澤隆衛を除く)及び申立外北澤友喜(以下、北澤姓の申立人は名前で、その余の申立人は姓で略記することとする。)は、同目録の各2記載のとおり、右期間中それぞれ本件会社の取締役の地位にあったものである。
二、本件会社の第四九期ないし第六四期の各期の損益並びに資産、負債の状況は、別紙第一目録ないし第一六目録の各3及び4の損益計算書(要約)及び貸借対照表(要約)の各「実質」欄記載のとおりである。これによると、第五一期、第五二期、第五四期ないし第五六期及び第五八期を除いては、いずれも税引前で損失があり、右の第五一期、第五二期、第五四期ないし第五六期及び第五八期においては、税引前で利益を計上しているが、その利益を超える繰越欠損金がある。
したがって、本件会社は、いずれの決算期においても、商法二九〇条一項に定める配当可能利益は皆無であったから、利益処分としての株主に対する利益配当及び役員に対する賞与の支給をなし得ない状態にあったし、所得に対して賦課される税金(法人税、都道府県民税、市町村民税、事業税及び会社臨時特別税)を納付する義務もなかった。
三、1. 被申立人國男は、本件会社の代表取締役として、第四九期ないし第六四期において、大幅な粉飾をほどこして架空の利益を計上した別紙第一目録ないし第一六目録の各3、4及び5の各「更生会社作成」欄記載の損益計算書(要約)貸借対照表(要約)及び利益金処分計算書(要約)を作成して、取締役会を招集せず、その議決を得ないのに、右各期の決算日後に開催された定時株主総会に議案として提出したところ、右各議案はいずれも原案どおり承認可決された。
2. 右国男及び被申立人隆衛を除くその余の被申立人ら及び申立外友喜は、同人らが取締役に就任していた右各期において、いずれも右1の各議案が取締役会の議決がないのに定時株主総会に提出され、原案どおり承認可決されるのを何らの手段を講じることなく放置した。
四、本件会社は、第四九期ないし第六四期において、右定時株主総会における右各議案の承認決議の結果、株主に対し、別紙第一八目録の「利益配当金」欄記載の各金員(国男が会社更生手続開始決定後に弁済した分を除く。)を利益配当として支払い、取締役及び監査役に対し、同目録の「役員賞与金」欄記載の各金員を役員賞与として支給し、更に、同目録の「税金」欄記載の各金員(会社更生手続開始決定後に還付された分を除く。)を税金(法人税、都道府県民税、市町村民税、事業税及び会社臨時特別税)として納付したため、右各金員が現実に社外へ流出し、右社外流出額と同額の損害を被った。
五、1. 被申立人國男は、本件会社の代表取締役として、第四九期ないし第六五期において、商法二六五条に定める取締役の承認を受けることなく、別紙第一目録ないし第一六目録の各6及び第一七目録の3記載のとおり、いずれも当時取締役であった申立外友喜に対し合計金二億六七〇一万七三四六円を、被申立人元男に対し合計金二億一三六六万九二九八円を、同克男に対し合計金一億二五三〇万二九八九円をそれぞれ貸付け、申立外友喜、被申立人元男及び同克男は、それぞれ右各金員を借り受けた。
2. 右國男及び被申立人隆衛を除くその余の被申立人ら及び申立外友喜は、同人らが取締役に就任していた右各期において(申立外友喜、申立人元男及び克男については、自らが借り受けた分を除く)、右1の貸付がなされるのを何らの手段を講ずることなく放置した。
3. 右貸付金を右各期別に集計すると、別紙第一八目録の「貸付金」欄記載のとおりとなるが、右三名はいずれも未だ右貸付金の返済をしない。
したがって、本件会社は、右の貸付により貸付額と同額の損害を被った。
六、申立外友喜は、昭和五一年一一月四日死亡したため、同日相続により、被申立人隆衛が同人の権利義務を承継した。
七、したがって、別紙第一八目録各期の「被申立人」欄記載の被申立人らは、更生会社である本件会社に対し連帯して、同目録各期の「利益配当金」欄、「役員賞与金」欄、「税金」欄及び「貸付金」欄記載の各金員並びに右各金員に対する、被申立人ら全員に対する本査定申立書送達の日の翌日である昭和五三年七月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第三、当裁判所の判断
一、本件会社が、昭和五二年三月三一日当裁判所において会社更生手続開始決定を受けたこと及び申立人がその管財人に選任され、現に会社更生手続進行中であることは、いずれも当裁判所に顕著な事実である。
二、本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すると、以下の事実が一応認められる。
1. 本件会社は、昭和四八年一一月三〇日までは決算期を毎年六月一日から一一月末日までの期と一二月一日から翌年の五月末日までの期の年二回に分かち、それぞれの末日をもってそれぞれの決算日としていたが、それ以降は毎年一二月一日から翌年一一月末日までの年一回とし、その末日をもって決算日とし、第四九期から第六五期までの各期の営業期間は、別紙第一目録ないし第一七目録の各1記載のとおりである。
2. 右各目録の各2記載のとおり、被申立人國男、同元男、同克男、同小口及び申立外友喜は第四九期ないし第六五期において、被申立人澄雄は第四九期ないし第六二期において、同淑夫は第四九期ないし第五一期及び第五四期ないし第六五期において、同或男は第五六期ないし第六五期において、同匡男は第五八期ないし第六五期において、同秀男は第六〇期ないし第六五期において、同中野は第六三期ないし第六五期において、それぞれ本件会社の取締役であった。
3. 本件会社の第四九期ないし第六四期における資産及び負債の状況は、別紙第一目録ないし第一六目録の各4の「実質」欄の貸借対照表(要約)記載のとおりであって、いずれの期においても欠損であり、商法二九〇条一項に定める配当可能利益は皆無であった。また、右各期における損益の状況は、同目録の各3の「実質」欄の損益計算書(要約)記載のとおりであって、第五一期、第五二期、第五四期ないし第五六期及び第五八期においては税引前当期利益が計上されているものの、その余の各期においては税引前で既に欠損であり、右の税引前当期利益が計上された各期においては、同目録の各4の「実質」欄の貸借対照表(要約)記載のとおり、その利益を超える繰越損失があったから、本件各社は、結局、第四九期から第六四期までの各期において、課税対象となる所得がなかったことになり、所得に対して課税される税金(法人税、都道府県民税、市町村民税、事業税及び会社臨時特別税)を納付する義務はなかった。
4. しかるに、本件会社の右各期の決算において、同目録の各3及び4の損益計算書(要約)及び貸借対照表(要約)の各「更生会社作成」欄記載のとおり、いずれも当期利益が計上された損益計算書及び貸借対照表が作成され(なお、粉飾の内容は、第四九期ないし第五六期においては、架空売上による仮装利益計上、第五七期ないし第六三期においては、右仮装利益計上に加え、商品売買の形式をとった金融取引による仮装利益計上、第六四期においては、右各仮装利益計上に加え、仮装土地売買による仮装利益の計上である。)これらが株主に対して利益配当をなし、かつ、取締役及び監査役に対して賞与を支給する旨の同目録の各5記載の利益金処分計算書(要約)中「更生会社作成」欄記載の内容の利益金処分案とともに右各期の定時株主総会に議案として提出されたが、右株主総会の招集及び議案の提出については、本件会社の取締役会の議決を経ていなかった。
5、本件会社は、右各期において、定時株主総会に提出された右の利益処分案を含む計算書類の承認を得たうえ、それぞれ当時の株主に対し、別紙第一八目録の「利益配当金」欄記載の金員(被申立人國男が会社更生手続開始決定後に弁済した分を除く。)を利益配当として支払い、当時の取締役及び監査役に対し、同目録の「役員賞与金」欄記載の金員を役員賞与として支給した。また、本件会社は、右各期において、右総会の決議により確定した決算に基づく法人税等の確定申告により納税義務を確定させたうえ、同目録の「税金」欄記載の金員(会社更生手続開始決定後に還付された分を除く。)を税金(法人税、都道府県民税、市町村民税、事業税及び会社臨時特別税)として各収税機関に納付した。
6、申立外友喜は、昭和五一年一一月四日死亡し、相続により、被申立人隆衛が同人の権利義務を承継した。
三、右に認定した事実によれば、被申立人國男は、本件会社の代表取締役として、第四九期ないし第六四期において、取締役会の決議を経ることなく、右各期の前記利益処分案を含む計算書類の承認につき、定時株主総会を招集し、その承認決議を経て、利益がないにもかかわらず、利益配当、役員への賞与の支給、税金の納付をそれぞれ現実になしたというのであり、取締役会の決議なしに株主総会の招集をし、また、配当可能利益がないのに利益配当に関する議案を右総会に提案することは法令に違反するものであるから、被申立人國男の代表取締役としての業務の執行は、この点において既に違法というべきである。そして、右國男及び被申立人隆衛を除く被申立人ら及び申立外友喜は、各人が取締役として在任した右各期において、決算日後右取締役会の招集がなく、これが開催されないという事実から、右國男の業務執行に違法な点があることを容易に認識し得たにもかかわらず、これを認識せず、したがって、右違法を是正する手段を採らなかったのであるから、会社に対する忠実義務、代表取締役に対する監視義務を負う取締役としての右職務上の義務を怠ったものというべきである。
四、なお、右國男及び小口を除くその余の被申立人らは、本件会社は、右國男の専権と独断で経営が行われたいわゆるワンマン会社であり、代表権のない平取締役は、いずれも経営の内容を知らされず、これを知らされる立場にもなく、その経営に口をさしはさむことは許されなかったし、取締役会に出席することも許されなかったから、被申立人ら及び申立外友喜に対し、いわゆる監視義務違反の責任を問うことはできないと主張する。
しかしながら、代表権のない平取締役は、取締役会の構成員として、前記のように代表取締役の業務執行一般を監視する義務があるから、まず取締役会に出席し、必要とあれば、取締役会の招集を求め、会社の営業及び財務の状態につき、その報告を求めて重要な情報を把握し、場合によっては、会社の業務、財産を調査する権限をも有するものであって、会社の営業及び財務について相当な疑念をさしはさむべき事項が存在するときには、これを確認し、チェックする義務を負うものというべきであり、このことは、取締役間に業務分担の定めがあったり、取締役が商業使用人たる地位を兼ねていたからといって異なるものではなく、また法は名目だけの取締役に席を与えてはいないものとみるべきであるから、名目的な取締役であるからといって、直ちに右義務を免れるものということはできない。そして、本件疎明資料及び審尋の全趣旨によると、本件会社は、その発行済株式総数四八〇〇万株のうち、その約七四パーセントにあたる三五五〇万株を右國男が所有し、その余の一、二五〇万株を北沢一族で分散所有する同族会社であると一応認められるところ、同族会社は、一般にその経営が経営者、とくに代表取締役の独断専行や公私混同の弊に陥りやすいものであることは一般に知られるところであり、右の被申立人らは、取締役の責任及び本件会社が右のような同族会社であり、しかも、その経営が正式な取締役会も開かれることなく、右國男の独断で決せられ、決算書類の正確性と完全性が確保される合理的な体制が十分に機能していないことを充分承知しながら取締役に就任したものと考えられるのに、右のように右國男の業務執行について何らの監視監督の手段を講ずることなく、業務の執行をまかせきりにして漫然その地位にとどまっていたというべきであるから、その責任を免れることはできない。
五、そうすると、被申立人國男は、同法二六六条一項一号に基づき、その余の被申立人ら(隆衛は申立外友喜の相続人として)は同条一項五号に基づき、別紙第一八目録の「被申立人」欄記載のとおり本件会社に対し連帯して、同目録の各期の「利益配当金」欄、「役員賞与金」欄及び「税金」欄記載の各金員並びに記録上明らかな右各金員に対する、被申立人ら全員に対する本査定申立書送達の日の翌日である昭和五三年七月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の賠償をなす義務がある。
六、次に、本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すると、以下の事実を一応認めることができる。
1. 本件会社は、第四九期ないし第六五期において、申立外友喜に対し、別紙第一目録ないし第一六目録の各6及び第一七目録の3記載のとおり、昭和四一年一二月一六日から昭和五一年一〇月一二日までの間、前後一四四回にわたり合計金二億六七〇一万七三四六円を、被申立人元男に対し、同記載のとおり昭和四一年一二月二六日から昭和五一年一一月三〇日までの間、前後八四回にわたり合計金二億一三六六万九二九八円を、同克男に対し、同記載のとおり昭和四一年一二月二六日から昭和五一年一一月三〇日までの間、前後八二回にわたり合計金一億二五三〇万二九八九円をそれぞれ貸付けた。
2. 右各期において代表取締役であった被申立人國男は、商法二六五条に規定する取締役会の承認を得ないで右各貸付を行った。そして、右の各貸付金を各期別に集計すると、別紙第一八目録の「貸付金」欄記載のとおりとなるが、右貸付金は、いずれも未だ返済されていない。
3. しかして、代表取締役であった右國男は、右の各貸付を行い、右各期において取締役であった隆衛を除く被申立人ら及び申立外友喜は、右國男が取締役会の承認を得ないで右の各貸付をするのを何らの手段を講じることなく放置した。
七、取締役が会社から金銭の貸付を受けるには、いわゆる自己取引として商法二六五条により取締役会の承認を得なければならないところ、右に認定した事実によれば、右各貸付はその承認を得ていないというのであるから、同条に違反する違法な貸付といわなければならない。したがって、代表取締役として右の各貸付を行った被申立人國男の行為は、同法二六五条に違反し、同法二六六条一項二号及び五号に該当し、また、右の貸付を受けた右友喜、元男及び克男の行為は、同法二六五条に違反し、同法二六六条一項五号に該当するものといわなければならない。
ところで、取締役は、前説示のとおり取締役会の構成員として、代表取締役の業務執行一般を監視する義務があるが、会社の取締役に対する貸付金については、本店に備え置くべき計算書類の附属明細書に詳細な記載をすべきものとされている(株式会社の貸借対照表及び損益計算書及び附属明細書に関する規則二一条、四五条)ため、取締役に対する金銭の貸付の有無及びその額などについては、右の附属明細書を調査、検討すれば容易に把握することができるものであるところ、右の義務を有する取締役としては、同法二八一条所定の計算書類はもとより右の附属明細書を充分に精査検討し、会社の業務及び財産の状況を把握すべきことは当然のことであるから、右國男及び隆衛を除く被申立人ら及び申立外友喜は、右國男の業務執行に対する監視、監督を厳にし、右の計算書類、附属明細書及び会計帳簿等を精査するなどして、右のような違法貸付を未然に防止すべき職務上の義務があったものというべきである。
しかるに、右の被申立人ら及び申立外友喜は、右國男が違法な貸付をするのを容易に知り得たにもかかわらず、右違法を是正する何らの手段を講ずることなく放置したというのであるから、右の職務上の義務を怠ったものというべく、そのため、違法貸付を未然に防止することができず、右國男において違法貸付を行った結果、別紙第一八目録の「貸付金」欄記載の金額が未だ返済されず、今後も返済される見込みが少ないため、本件会社は右同額の損害を被るに至ったのであって、このような取締役の任務懈怠は同法二五四条の二に違反し、同法二六六条一項五号に該当するものといわなければならない(ただし、右友喜、元男及び克男の三名については、いずれも前記同法二六五条に違反する分を除く。)。
なお、右國男及び小口を除くその余の被申立人らは、この点についても、本件会社が右國男の専権と独断で経営が行われたいわゆるワンマン会社であることから、右被申立人ら及び申立外友喜に対しいわゆる監視義務違反の責任を問うことはできないと主張するが、代表権のない平取締役は、取締役会の構成員として代表取締役の業務一般を監視する義務があり、名目的取締役であるからといって右義務を免れるものでないことは前説示のとおりである。
そうすると、被申立人國男は同法二六六条一項二号及び五号に基づき、その余の被申立人ら(隆衛は申立外友喜の相続人として)は同法一項五号に基づき、それぞれ別紙第一八目録の「被申立人」欄記載のとおり本件会社に対し連帯して、同目録の各期の「貸付金」欄記載の各金員並びに右各金員に対する記録上明らかな被申立人ら全員に対する本査定申立書送達の日の翌日である昭和五三年七月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の賠償をなす義務がある。
八、よって、申立人の本件損害賠償請求権査定の申立はすべて理由があるからこれを認容することとし、申立費用の負担につき会社更生法八条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 江見弘武 渡邊等)